坂本真綾 15周年記念ベストアルバム everywhere(初回限定盤)(DVD付)
坂本真綾
JVCエンタテインメント・ネットワークス
発売日 2010-03-31
声優としての活躍はもちろん、女優、エッセイスト、ラジオ・パーソナリティとしてなど、多方面で才能を発揮するマルチ・タレント坂本真綾。彼女のシンガーとしての活動15周年を記念した初のベスト・アルバムとなるのが本作だ。瑞々しい感性が息づいた作詞家としての実力や、多彩な楽曲に対応するナチュラルな歌声の魅力が2枚組全30曲に網羅されている。大半の楽曲のサウンド・プロダクションを手掛ける菅野よう子の確かな仕事ぶりも再確認できる。(ADLIB 2010年4月号)
しなやかな歌声の軌跡 2010-05-09
改めて語ることではないけれど、坂本真綾15年の軌跡。特に十代の少女期と
20歳を過ぎた頃との歴然とする歌声の差。飾り気のない素の魅力をぶつけた
前者と、あえて"聴かせる"ことに目覚めた、美しさを纏った大人の女性の後者
との両極が交互に立ち現れる。が、どちらも坂本真綾であると当然認識されており、
その自身の成長の足跡でもある両者をこうして変わらず愛でることができる。
――そんな坂本真綾としての普遍性を如実に垣間見れる作品でもある。
デビューから常に感じてきたことだが、その自然体でありながらキラキラとした
透明感と共に温かみのある歌声は、どんな曲調やアレンジとも違和感なくマッチする。
シンガー黎明期よりプロデュースを務めてきた菅野よう子という才能が紡ぎ出す、
まるで宝箱のようなバラエティに富んだ懐の深い様々な楽曲郡...そんな揺るぎない
土台があってこそでもあるし、同時にそれは、坂本真綾自身の奔放な魅力が引き
付けた必然的な出会いでもあった。そして、その輝きがすべてを肯定していた。
そして今、坂本真綾は完全に自立した一人のアーティストとして歩んでいる。
それを可能としたのは、やはり彼女自身が持つ、決してぶれることのない自身の魅力と、
だからこそ起こりえた様々な作曲家アーティストとのコラボによる化学反応だった。
これはその集大成。何より坂本真綾自身が自らの軌跡にひとしきりの感慨を持って選曲。
勿論、その選に漏れてしまった楽曲たちも様々に存在する。それらをその時々のアルバム
などから紐解き、堪能してみるのも一興。本当にとりどりの色彩に彩られた豊かなその表情に、
今さらながら驚かされる。本作はおそらく一つの、その壮大なる真綾ナビとでもいった役どころ。
特に今回初披露のタイトル曲「everywhere」には、そんな彼女の想いが凝縮されている。
例えどこにいても、どれほど時が経ても、彼女は彼女。そんな彼女なりの普遍性を
深く感じ取ることで見えてくる彼女の表現者、そして人間としての奥行きの広さ。
ちょうど30歳で15周年。しかし今後、35歳そして40歳という節目節目がやってくる
だろう。彼女の歴史が始まったのは、まだほんの15年前。次の25周年には一体どんな
表情(かお)を見せてくれるのか、遠いようで近い未来に思い馳せ、既にこれからの
道筋が楽しみでしかたない。女性でありながら少年のような自由奔放さで、そして
切なさや力強さまでも体現する彼女の音楽。そのしなやかな歌声の軌跡に触れられた、
この極上の幸福感。それはまるで、いつまでも覚めやらない鮮やかな夢のようだ。